2016年10月24日

美術教育学会(滋賀大会) 自分の発表 最終

中学3年生だからこそできる鑑賞を目指して取り組んできた事例2つを発問の機能分析という論旨に合わせて適宜紹介してきました。
二種類の提案を同時にやってしまおうというところがチョットややこしかったかもしれません。
(できるだけ読みやすくなるように文章は考えたつもりなんですが)
要するに
・生徒自身が解釈を生み出すことを大切にして鑑賞をする(これはある意味当然のこと)
・中学1年生なら、対話による鑑賞やVTSで行うやり取りの所で終わる場合がある。
・そこからもう一歩踏み込むためにはブレイクスルーが必要
・そのためにクローズドクエスチョンを使い、それを伏線とするようなさらに深い発問を投げかけた。

・・・ということになるでしょうか。

そして
鑑賞の授業を参観するとたまに「何のためにその質問をするのかよくわからない」といういような発問に出会ってしまうことがありますが、提案した4つの発問はそれぞれにタイプがあり、機能があり、必要性があることがわかるように書いたつもりです。
非常に限られた時間の美術科ですから、できるだけ珠玉の発問でいきたいものです。

こう書くと綿密に計画した授業正確に実施したように思われるかもしれません。
けど当然授業というのは生き物のようなもので、その時その場に居た者だけが作り出す奇跡のようなものだと信じています。
だから授業の進み具合や、そのクラスの解釈の流れによっては用意した発問を使用しないこともあります。
そんな時は、その方向に応じた対話へ変更しながら、別の道を模索しないといけませんね。(その授業内に・臨機応変に)
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◆HiddenCurriculum(Philip W. Jackson、"Life In Classrooms", 1968)
 教師が意図する意図しないに関わらず生徒に(無意識に)及ぼす影響。

◆西洋美術101鑑賞ガイドブック
 神林恒道+新関伸也 編著 三元社2008

◆日本美術101鑑賞ガイドブック
(神林恒道+新関伸也 編著 三元社2008)
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2016年10月23日

美術教育学会(滋賀大会) 自分の発表 その10

発表5.JPG
教師からのディープな投げかけがあって、生徒たちは色々なことを考えてくれるわけなんですが、それぞれどんな意見を出してくれたのかを紹介しますね。

<クリスティーナの世界の場合>
「主に室内で働く彼女をワイエスは、広い世界に出してあげたかったのではないか。だからこの作品は必要以上に遠近感を感じるし、広さの表現に力が入っているように思う」
「足の悪いクリスティーナに限らず体にハンディを負っている人にとってはこの世界は、この絵のように厳しく荒涼としていることを表しているのではないか」
「彼女にとって目的地は、私たちよりも遥か遠く感じるというそんな彼女の心情を描いたからクリスティーナの世界という題の作品なんだろう」
「草をにぎって体を引きずるように少しずつ前進しているのが彼女の苦労であり生き方でもあるから。」

・・・というような感想をプリントに書いてくれました。
もちろん全員ではないですが、なかなかハッとさせられるようなことを書いてくれます。ここに紹介したのは梶岡の想定を超えた(自分では思いつかなかった)予想外のものということになります。
Christinas-World-1949.jpg

<東京オリンピックの場合>
「自分だけを作者名にするなんてずるいと思う」
「個人名ではなくポスター制作委員会にすればよかったのに」
「上司が部下の手柄を横取りするのは世の常だ。けしからん」
「衣装係や照明係は、別人でも交代可能だが亀倉さんは交代できないと思う」
「作成を依頼されたのは亀倉さんだった。彼は実現のためにスタッフを雇ったんだからこれで良い」
「嵐のCDは、彼らが曲を作ったり歌詞を書いてメッセージを発信しようとしていないけど嵐の名義になっているということも関係があるかも」

・・・・というような意見を聞くことができました。
賛成派と反対派に分かれて激論するクラスもあれば、たいして揺さぶられずに「亀倉さん名義で当然だろう」というクールなクラスもあります。そういうクラスでも生徒個人が書くワークシートには数名、色々と疑問を持った生徒もいるようで、読みながら
「クールなフリして、けっこう揺さぶられてるやん」(笑)
と、ニヤついたりしています。
sczn147.jpg
posted by kazyhazy at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 学会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月21日

美術教育学会(滋賀大会) 自分の発表 その9

発表5.JPG
OpenClosedという言い方はあるけれどDeepという言い方はありませんよね。
本当はこの発問も、種類でいうとオープンクエスチョンなのですが、生徒たちが深く悩んだり葛藤したりする発問を準備しておきたいという自分の心構えのためにこう呼ぶようにしています。
(でた!命名好きのサガ)
さて、それぞれの作品で、ブレークスルーとしてのクローズドクエスチョンで揺さぶって伏線を貼ったところに、どんなディープクエスチョンを放ったかというと・・・・

<クリスティーナの世界の場合>
 生まれながらに足の悪い彼女は、自分にできる仕事をしながら50歳を超えたところでワイエスにモデルを頼まれたという話をした後です。それに続けてディープクエスチョンを投げかけます。
「足の悪いクリスティーナを描いたワイエスは、なぜ荒涼とした草原に彼女を配置し、なぜ草を掴んで地を這うような姿勢にして、これに「クリスティーナの世界」と名付けた。これは一体どういうことなのだろうか。」

<東京オリンピックの場合>
撮影時に作者が現場に居なかった事実を伝えて「そんなバカな」とブーイングの嵐の中で生徒に投げかけます。
「授業の最初に資料で調べて、作者名は亀倉雄策さんでしたよね。けどどうでしょうか?この作品の作者名は亀倉雄策のままで良いと思いますか?」

クラスによっては小グループでの討論となったり、全体でのディベートになったり、個人でじっくり考えたことをワークシートに記入するなど、状況に応じて異なる展開が可能ですが、一生懸命そして真剣に考え始めることは請け合いです。

このディープクエスチョンというのは、
・本当に正解があるのかどうかも怪しい
・大人でもこたえられるかどうか怪しい
・指導要領に沿っているのかも怪しい
・・・という怪しいことだらけの発問です。(笑)

しかし、この場に居て、この授業を受けた者だけが、この高みへ飛躍できる奇跡ののような時間にしたいと思っているのでこのような発問をしてしまうのでしょうねえ。
(まあ実際は、クラスによっては違う方向へ進んだり、たまにここまで来れなかったりするというのが難しいところ。鑑賞の授業はナマモノですから、綺麗ごとだけではなく色々あるってことを正直に書いてるだけ良心的だと思ってください。)

さあ、この無茶ぶりとも思える発問に生徒はどう答えたのでしょうか?
続きは次回。
posted by kazyhazy at 22:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 学会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月20日

美術教育学会(滋賀大会) 自分の発表 その8

今日は「東京オリンピック1964陸上編」(亀倉雄策)
で授業をした時の話です。
sczn147.jpg

ここでも生徒とのやりとりが一段落したときに
新しい視点としてクローズドクエスチョンを投入して
次のステップへ進むためのブレイクスルーにしています。

発表45.jpg
どんな投げかけをしたかというと・・・・
「この迫力のある写真を撮るための撮影会をした時のことを想像してください。亀倉雄策さん一人でこの写真は撮れませんから色々な役割のスタッフが必要だと思います。
さあ班で相談して、どんな役割のスタッフが必要か書き上げてください」


各班にミニホワイトボードが配付してあるので、相談しながらそれに書き込んでくれます。
・カメラマン(たいてい最初にこれを書きます)
・ランナーの役(走るモデルさん)
・右から照明を当てる人
・ユニフォームを用意する人(デザインする人)
・場所を確保したりグランドを整備する人
・スターター(よ〜いドンの係)
・全体を指示する人(現場監督)

・・・・などはスラスラ出てきます。
ランナー役が外人なので「通訳も必要」とか
撮影には時間がかかるので「弁当係も必要」などという笑いを誘うものもありました。

話が前後しますが、授業の終わりに感想を書くときに何人かの生徒が
「この活動が新鮮だった。一枚の写真にどれだけのスタッフが必要かなんて、普段ポスターやCMを見ててもゼンゼン意識してなかったので、目からウロコだった。」
などと書いてくれます。
絵画ではなくデザイン作品ならではの活動ですよね。

さて、色々な役割やスタッフが書き上げられた訳ですが・・・
実は授業の最初に、資料集の巻末の美術史のページで、歴史に残る偉大な作品であることをすでに確認してあって、作者名が亀倉雄策であることは黒板に大きく書いてあります。だからここで生徒にはこんな質問ができます。

「撮影会に必要な役割をたくさん書き上げてくれましたが
 さあ、作者の亀倉雄策氏はどの仕事を担当しましたか?」

(これがクローズドクエスチョンです)
生徒の予想で一番多いのは「現場監督」で二番目は「カメラマン」です。けどカメラマンは専門の人に頼んだ方が良いのではないか?という意見が出たりもします。

昨日の記事と同様、クローズドクエスチョンには正解があります。
「ここで実際にあった話をします」
・・・と言って、生徒たちがシーンとなったところで
皆さんの予想通りカメラマンはその道のプロです。亀倉さんに頼まれたカメラマンが現場を仕切って撮影会をしました。
そこで、50枚前後の候補写真が撮影できたので、それを亀倉さんのところへ持っていきます。そして亀倉さんは50数枚の中から「これだ!」というのを指さしました。


「つまり、正解は亀倉さんは、撮影現場には居なかった!・・でした〜」
・・・・というと、生徒たちは大ブーイングです。

これはまあ授業でいう所の「揺さぶり」ってやつですね。
そしてクリスティーナの世界同様に、この状態が次の発問の伏線になるのですが、その話は次回に。

posted by kazyhazy at 19:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 学会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月19日

美術教育学会(滋賀大会) 自分の発表 その7

発表45.jpg
さて、クローズドクエスチョンをどのようにぶつけたかというと
<クリスティーナの世界の場合>
「この女性って、どこかから旅をしてきて遠くに見える家に向かっているの?それとも家から出てきて帰ろうとしているの? 今まで無意識にどっちだと思って見てた?」
・・・と「行くか帰るか」の二者択一で問いかけます
鑑賞の時間に二者択一なんてなかなかの暴挙ですよね(笑)

主観の飽和状態で停止していた生徒たちは
(そういえば自分はどっちだと思ってこれまでこの絵を見てきたんだ?)
・・・と思考に再起動がかかります。

「全員どちらかに手をあげましょう。まずは家に向かっている派!」
なんて感じで聞いていきます。
kanshou.jpg

当然、意見がクラスでまっぷたつに分かれます。
「体の向きから行って、家の方向に向かっているだろう」
「いやいや、どこかから家にやって来たのなら荷物はどこにあるんだ」
「そうだそうだ、ワイエスさんのリアルな作風からいって描き忘れなんか考えられないぞ」

「山賊か何かわからないけど、奪われて逃げてきたんだ」
「そう言えばこの女性、服も汚れているし疲れているみたい」

・・・というようなやり取りが実際にありました。

ディベートのように色々意見が出ますが、
クローズドクエスチョンということは正解があります。
授業ではちょっと真剣な顔で
「ここで実際にあった話を言うね」
と言って、資料で調べた話をします。

この女性の名がクリスティーナで、幼いころから小児麻痺のために足が不自由な女性です。
彼女は足が不自由でもできる仕事で生計を立てて、もう50歳を越えました。
遠くに見える家はワイエスのアトリエだという説があります。
外にほとんど出ない彼女はワイエスのアトリエの掃除や料理の仕事をしていました。
その彼女を描きたいと思ったワイエスがモデルを頼んだという訳です。


・・・と、ちょっとしんみり話をします。
(上に書いたクリスティーナの話は、複数の資料で調べたことをミックスしていますので、もしかしたら皆さんが知っておられる説とは微妙に違うかもしれません)

・・・という風にクローズドクエスチョンらしく、ちゃんと閉じる(クローズ)訳なんですが、これが飽和状態のブレイクスルーなのだけではなく、実は4つ目の発問の伏線になっているのです!(わくわく)

けど次回は4つ目の発問に行かずに<東京オリンピックの場合>のクローズドクエスチョンを紹介しますね。
posted by kazyhazy at 21:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 学会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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